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2006年11月 4日 (土)

平和国家という虚像

軍隊を持たないコスタリカにある平和大学の分校が出来るらしい。

平和大学、マニラに分校 定員の半数日本から

 平和構築に携わる人材育成のため、国連総会決議に基づき中米コスタリカに置かれている平和大学が来年4月、マニラに分校を開校する。アジア出身者向けの修士課程を開設するのにあわせたもので、日本財団(笹川陽平会長)が資金援助する。1期30人の定員の半数は日本から選ぶ予定。途上国支援の経験を持ちながら、国際機関で働くのに必要な専門知識を学ぶ機会を持たない国際協力機構(JICA)の元青年海外協力隊員が念頭にある。

 平和大学は国連総会が80年に設置を決議し、翌81年に軍隊を持たないコスタリカに開設された。学生は平和構築や紛争管理などを学ぶ

 このほど来日した同大学のジョルジュ・ツァイ副学長によると、マニラ校はアテネオ・デ・マニラ大学内に開設される。新修士課程は19カ月で、マニラ校で英語を5カ月学んだあとコスタリカ本校で専門の研究を半年、さらにマニラで4カ月学び、フィリピンの国際機関などで4カ月間、インターンとして活動する。

 国際機関への人的貢献で日本は遅れが指摘されるが、青年海外協力隊員の中には2年の派遣生活のあと国際機関で働くことを望む人が少なくない。ただ、途上国での経験から現地語には堪能な一方、高度な英語力が身に付いていなかったり、国際機関で働く際に求められることが多い修士号取得の機会がなかったりなどの理由で、あきらめる隊員も多いという。

 日本財団は分校開設費用のほか、奨学金など1期あたり約140万ドル(約1億6400万円)の支援を当面5期続ける予定だ。ツァイ副学長は「約40カ国から学生が集まるコスタリカで多様な文化に触れる一方、アジアにも焦点をあててほしい」と話す。

 新修士課程への応募締め切りは12月15日。募集要項は大学のサイトwww.upeace.org/からアクセスできる。

 〈平和大学〉 国連総会が80年に設置を決議した。翌81年、軍隊を持たないコスタリカに開設された。学生は平和構築や紛争管理などを学ぶ。国連機関である国連大学(東京)とは違い、国連から独立して運営され、修士、博士課程がある。02年度以降の修了生は計262人。うちアジア出身は中国、韓国、インドネシアなど18カ国の44人。うち日本は4人。

2006年11月04日13時42分 朝日新聞

 コスタリカは軍隊を持たない平和国家らしいです。この非武装中立で中南米でも優れた教育水準と福祉水準を持つと言われるコスタリカは世の平和主義者の羨望の的となっているようです。

 この「軍隊を持たないコスタリカ」は憲法第12条において次のように規定しています。

 「常備期間としての軍隊は禁止される。公共秩序の監視と維持のために必要な警察力を置く。米州の協定によって、あるいは国家の防衛の為にのみ、軍事力を組織することが出来る。いずれの軍事量も常に文民権力に従属する。軍隊は、個人的であれあるいは集団的な形であれ、声明あるいは先刻を討議したり、発表したりしてはならない。」

 つまり、コスタリカは常備的な軍隊は否定していますが、非常時の軍隊は組織できることを規定しています。この点に関して言えば、戦争の放棄と交戦権を否定した日本国憲法第9条の方が遥かに自虐的です。

 この常備軍廃止の理念は1948年の内戦の経験から出たものであり、安全保障については1947年9月に結成されたリオ条約(米州相互援助条約)に依存することを念頭に、対米従属外交によってのみ保障されるものとなっています。

 中南米は冷戦の始まった1950年代以降、この地域を「裏庭」=「勢力圏」と考える米国により、直接・間接的に軍事介入又は干渉を受け続けており、キューバとベネズエラを除き政権は根こそぎ倒壊させられてしまいました。

 この事実は、中南米において、革新的、民族主義的政権は米国によって全て倒壊させられることを意味しており、コスタリカの非武装中立とは、革新的な内外政策を犠牲にし、親米協調路線を維持してのみ可能なものだということが出来ます。

 そしてその対米追従路線は80年代に非武装・中立を宣言しながら米国が支援するコントラの支援基地を国内に設けることを認め、ニカラグアのサンディニスタ革命政権への干渉政策の見返りとして14億ドルの援助を受けたことから言っても明らかです。

 また、コスタリカの「警察力」は2001年の時点で市民警備隊4400人、国境警備隊2000人、地方警備隊2000人の計8400人を数え、その装備は90mmロケット砲や先頭車両、レシプロ攻撃機を擁する強力な抑止力であり、その治安費は年間113億ドルに達し、中南米で第3位の実績を誇っています。そしてそれは中米紛争終結時の1991年の状況からまったく変わっておらず、これをただの警察力と位置づけるのは無理があり、また、非武装・中立が軍事費抑制に働いたという痕跡はまったく見受けられません。

 週間金曜日によれば、コスタリカは「兵士の数だけ教師を」を合言葉に軍事予算を教育予算に変え、年間予算の3分の1を教育予算に費やして大成功を収めているそうですが、実際のところ、識字率ではキューバ、アルゼンチン、ウルグアイ、チリに劣り、貧困層の数ではアルゼンチン、ウルグアイ、チリに劣っており、他の中南米の国家の中でも飛びぬけた豊かさとはいえません。国内では人口380万人の内70万人が貧困ライン以下、35万人が絶対的貧困ライン以下の生活を強いられ、首都サンホセには数百人のストリートチルドレンが存在し、全国で9000人の女性が売春を行なっていると報告されており、けして福祉国家といえる状況下には無いようです。

 そして教職員の数だけで言えば、日本の自衛官が23万9430名であるのに対して、教師の数は日教組の組合員だけで30万3800名存在する点から考えても「兵士の数だけ教師を」というスローガンは特に優れたものとはいえません。

 以上のことから、コスタリカの現在の地位は軍隊を持たない平和国家だから得られたものではなく、米国に追従して積極的に協力した対価として、多額の援助を受けたからだと結論付けることが出来ます。

 また、モンヘ大統領の1983年9月に発表された「永久的非武装、積極的中立」を宣言した有名な大統領宣告がありますが、これは国会の3分の2の承認を得られず否決され、国内的にも国際的にも何の法的根拠は持たないただのモンヘ大統領の決意表明にしかすぎません。非武装といいながら中南米第3位の強力な「警察力」を持ち、米国に追従して積極的にコントラ支援に協力するその非自主的な外交姿勢から見てもこれを非武装・中立とするのは無理があります。以上の理由により、コスタリカは国際的にも一般的にもまた周辺国にも中立国家とは看做されていません。

 平和大学で平和構築や紛争管理を学ぶことはとても結構なことだと思います。どんな筋金入りの平和主義者も中南米の微妙なパワーバランスの中で学べば、「永久的非武装、積極的中立」がただの幻想にしか過ぎないことを思い知ることになるでしょう。

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参考サイト

最近のコスタリカ評価についての若干の問題 弁護士 毛利正道のページ

平和憲法の国コスタリカ 非武装という強さ 週間金曜日400号 2002.2.22

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